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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)890号 判決

主文

原判決を破棄し本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人坪野米男の上告理由第一点について。

原審の認定する事実によれば、本件当事者間において、昭和二三年二月二日成立した売買契約は、京都市下京区猪熊通四条下る松本町二六〇番地宅地七七坪五勺並びに同地上に現存の木造瓦葺二階建店舗及び附属工場等を目的とするものであつて、係争となつている土蔵二棟を含まず、かつ土蔵敷地(二〇坪四合二勺)が本来前記松本町二六〇番地の一部であるにかかわらず、右二棟の土蔵は、登記簿上は隣地たる立中町五〇〇番地に存在し、土地の状況としても契約当時においては、当事者双方はもとより関係人においても右土蔵敷地が本件売買契約の土地である松本町二六〇番地に属することを知らず、売買成立後相当日時を経過して初めてこれを知つたというのである。そして被上告人は、本件売買契約を締結するに当り、現場を検分に行つたというのであつて、少くとも係争の二棟の土蔵そのものを売買の目的物としなかつたことは明らかである。しかも右土蔵をそのまま存置するか又は収去するか等について当事者間に協議があつたような事実は、なんら原審の確定しないところである。以上のような事実関係の下においては、他に特段の事情のないかぎり、土蔵敷地が登記簿上売買の目的たる一筆の土地に属するかどうかにかかわらず、通常その敷地をも除外する暗黙の意思表示があつたと見るのが取引の通念からいつて相当であるといわなければならない。原判決の引用する第一審判決はこのような特段の事情のあつたことないし暗黙の意思表示の有無についてなんら審理するところなく、契約証書の土地表示のみによつてたやすく上告人が、右登記簿上の一筆の土地全部を売却したものと認定したのは、審理をつくさなかつた違法があり、破棄を免れない。すなわち所論のこの点に関する主張は理由あるに帰するから、他の論旨を判断することを省略し原判決を破棄して原裁判所に差し戻すこととし、民訴四〇七条を適用し、全裁判官一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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